各時代の大争闘

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法王軍の惨敗

それから数年後、新しい法王が立って、もう一度別の十字軍が起こされた。以前と同様に、人員も資金もヨーロッパのすべての法王教国から徴集された。この GCJap 134.3

ような危険な企てに加わる者に対する勧誘は、非常なものであった。十字軍に参加する者は、どんな極悪な犯罪もみな許された。すべての戦死者には、天で大きな報賞が約束され、生存者には戦場での栄誉と富が約束された。再び大軍が召集され、国境を越えてボヘミアに侵入した。フス派の軍勢は彼らの前から退却し、侵入軍を国内深く誘い入れて、勝利をすでに得たかのように彼らに思わせた。やがてプロコピオスの軍隊は踏みとどまって敵に向きなおり、反撃を加えた。十字軍は、自分たちの失策に気づき、陣地にとどまって敵の襲来を待った。しかし、軍隊の進軍の音が聞こえてくると、フス派の姿がまだ見えないのに、十字軍はまた恐慌状態に陥った。諸侯も将軍も、そして一般の兵隊も、武器を投げ捨てて四散した。侵入軍の指揮官であった法王の使節は、おびえて混乱した軍勢を引き戻そうと努力したが無駄であった。必死の努力にもかかわらず、彼自身も、敗走者の群れにまきこまれてしまった。十字軍は完全に敗北し、ふたたび、おびただしい戦利品が勝利者の手に入った。 GCJap 135.1

こうして、再度、ヨーロッパの最強国家の大軍、戦いの訓練と装備を整えた勇敢な戦士たちの軍勢が、一戦をも交えずに、弱小国家の防備軍の前に敗れ去った。これは、神の力のあらわれであった。侵入軍は、超自然的な恐怖におそわれた。パロの軍勢を紅海で打ち破り、ミデアンの軍勢をギデオンと彼の三〇〇人の兵隊の前から逃走させ、高慢なアッシリアの軍勢を一晩のうちに倒された神が、ふたたび手を伸べて、圧迫者の力を砕かれたのである。「彼らは恐るべきことのない時に大いに恐れた。神はよこしまな者の骨を散らされるからである。神が彼らを捨てられるので、彼らは恥をこうむるであろう」(詩篇53篇5節)。 GCJap 135.2

法王教の指導者たちは、武力で征服することができないのに気づいて、ついに外交手段を用いるようになった。つまり、これは妥協であって、ボヘミア人に良 GCJap 135.3

心の自由を与えると言いながら、実は彼らをローマの権力に引き渡すものであった。ボヘミア人は、ローマとの和解の条件を四つあげた。聖書の自由説教、教会全体が聖餐のパンとぶどう酒の両方にあずかる権利と礼拝における自国語の使用、聖職者をすべての公職公権から除外すること、そして、犯罪を犯した場合、聖職者も一般信者も同様に司法権に問われることであった。法王側はついに、「フス派の四項目を受け入れることに同意したが、その解釈権、すなわち、その正確な意味の決定権は会議に―─言いかえると、法王と皇帝に―─属するとした」。このような条件に基づいて条約が結ばれ、ローマは、戦争によって得ることができなかったことを偽りと欺瞞によって得たのである。なぜなら、ローマは、聖書と同様にフス派の条件にも自分勝手な解釈を下して、自分に都合のよいようにその意味を曲げることができたからである。 GCJap 136.1

多くのボヘミア人は、それが自分たちの自由を裏切るものであるのを見て、条約に同意することができなかった。不和と分裂が起こり、ついには争って血を流すまでに至った。この紛争の中で、高潔なプロコピオスは倒れ、ボヘミアの自由は失われた。 GCJap 136.2

こうして、フスとヒエロニムスを裏切ったジギスムントは、ボヘミアの王となり、ボヘミア人の権利を確保する誓約をしていたにもかかわらず、法王権を確立しようとした。しかし、ローマに屈服して彼の得たものはほとんどなかった。彼の生涯は、約二〇年にわたって、労苦と危険に満ちたものであった。長い無益な戦争のために、軍隊は弱くなり、国庫はからになった。そして、今、王にはなったが、一年で死んでしまった。国家が、今にも内乱が起こりそうになっている中で、彼は悪名を残して死んだ。 GCJap 136.3