各時代の大争闘
英語訳聖書の完成
ところが突然、彼の活動は中断された。彼は、まだ六〇歳にもなっていなかったのに、絶え間ない苦労と研究と敵の攻撃が体にこたえて、早くもふけこんだ。彼は重病にかかった。この知らせは、修道士たちを大いに喜ばせた。彼らは、今こそ、彼が教会に対して行った悪をいたく悔いるものと思って、彼の告白を聞くために彼の部屋へと急いだ。四つの修道会からの代表者たちが、四人の政府の役人たちとともに、今にも死にそうだと思われた者のまわりに集まった。「あなたは今、死にひんしている。自分の過ちを認め、われわれを非難して言ったすべてのことを、われわれの前で取り消せ」と彼らは言った。ウィクリフは黙って聞いていた。それから付き添いの者に、自分をベッドの上に起き上がらせるよう命じ、彼の取り消しの言葉を待って立っている彼らをじっと見つめて、これまで何度も彼らを戦慄させた強いしっかりした声で、「わたしは死なない。生きるのだ。そして、もう一度、修道士たちの悪行を糾弾する」と言った。修道士たちは驚き恥じ入り、急ぎ足で部屋を出ていった。 GCJap 101.3
ウィクリフの言葉は成就した。彼は生きのびて、彼の同胞の手に、ローマに対するあらゆる武器のうちで最も強力なものを与えた。すなわち彼は、聖書を彼らに与えた。それは、人々を解放し啓発し教化するために、神がお与えになったものであった。この事業を完成するためには、多くの大きな障害を越えなければならなかった。ウィクリフは健康を害していた。彼は、自分があと数年しか働くことができないことを知っていた。反対に直面しなければならないことも知っていた。 GCJap 102.1
しかし彼は、神のみ言葉の約束に励まされて、恐れることなく前進した。これまで彼は、旺盛な知力と豊かな経験のうちに、彼の仕事の中でも最大の事業のために、神の特別の摂理によって守られ準備させられてきた。キリスト教国全体が混乱に満ちている時に、改革者ウィクリフはラタワースの牧師館で、外部のすさまじい嵐をよそに、彼が選んだ仕事に没頭した。 GCJap 102.2
ついに仕事は完成した。これは最初の英語訳の聖書であった。神の言葉が英国に開かれた。改革者は、もう牢獄も死も恐れなかった。彼は英国民の手に、消すことができない光を渡したのである。同胞の手に聖書を与えることによって、彼は、無知と悪徳のかせを破壊して自国を解放し高めるうえで、戦場におけるどんな輝かしい勝利がもたらしたものよりも、さらに大いなることを成し遂げたのである。 GCJap 102.3
まだ印刷術が知られていなかったので、聖書は、遅々としたうんざりするような労苦によって、増やすより他はなかった。聖書を手に入れたいという希望は非常に強く、聖書を写す仕事に喜んで従事する者も多かったけれども、筆記者たちは、なかなか要求を満たすことができなかった。金持ちの中には、聖書全巻を希望するものもあった。他の人々は、一部分だけを買った。何家族かが一緒になって一冊を買うという場合 GCJap 102.4
も多かった。こうして、ウィクリフの聖書は、まもなく人々の家庭へと入っていった。 GCJap 103.1
人間の理性に対するこうした訴えによって、人々は、法王の教義にただ黙従することから目覚めた。ウィクリフは、ここにおいて、新教主義の独特の教理、すなわち、キリストを信じる信仰による救いと、聖書が唯一の無謬なものであることとを教えた。また彼が派遣した説教者たちは、ウィクリフの文書とともに聖書を配布し、英国民の半数近くがこの新しい信仰を受け入れるという成功を収めた。 GCJap 103.2