人類のあけぼの

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第1章 罪悪はなぜ発生したか

「神は愛である」(Ⅰヨハネ4:16)、神の性質、神の律法は愛である。それは今までもそうであったし、これからも同じである。「いと高く、いと上なる者、とこしえに住む者」、その「道が永久」である方は、お変わりにならない。彼には、「変化とか回転の影とかいうものはない」(イザヤ57:15、ハバクク3:6・文語訳、ヤコブ1:17)。 PP 13.1

創造の力が現されているものは、すべて、神の無限の愛の表現である。神の統治は、すべての造られたものへ、豊かな祝福を与えることを意味する。詩篇記者は言っている。 PP 13.2

「あなたの手は強く、あなたの右の手は高く、 PP 13.3

義と公平はあなたのみくらの基、 PP 13.4

いつくしみと、まことはあなたの前に行きます。 PP 13.5

祭の日の喜びの声を知る民はさいわいです。 PP 13.6

主よ、彼らはみ顔の光のなかを歩み、 PP 13.7

ひねもす、み名によって喜び、 PP 13.8

あなたの義をほめたたえます。 PP 13.9

あなたは彼らの力の栄光だからです。…… PP 13.10

われらの盾は主に属し、 PP 13.11

われらの王はイスラエルの聖者に属します」 PP 13.12

(詩篇89:13~18) PP 13.13

まず、反逆が天で始まったそのときから、ついに、それがくつがえされて、罪が完全に根絶されるまでの善悪の大争闘の歴史もまた、神の不変の愛の実証である。 PP 13.14

宇宙の統治者は、その恵み深いお働きをひとりではなさらなかった。彼には助け手があった。すなわち、彼の目的を理解し、幸福を与えることを、共に喜び合える共労者であった。「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は初めに神と共にあった」(ヨハネ1:1、2)。言であり、神のひとり子であったキリストは、永遠の父と1つ、すなわち、その性質、品性、目的が1つであって、神のあらゆる計画と目的に参加できる唯一のお方であった。 PP 13.15

「その名は、『霊妙なる議士、大能の神、とこしえの父、平和の君』ととなえられる」(イザヤ9:6)。「その出るのは昔から、いにしえの日からである」(ミカ5:2)。また、神のみ子は、ご自身について、こう言明された。「主が昔そのわざをなし始められるとき、そのわざの初めとして、わたしを造られた。いにしえ、地のなかった時、初めに、わたしは立てられた。……また地の基を定められたときわたしは、そのかたわらにあって、名匠となり、日々に喜び、常にその前に楽し」んだ(箴言8:22~30)。 PP 13.16

父はみ子によって天のすべての住民をお造りになった。「万物は、……位も主権も、支配も権威も、みな御子にあって造られたからである。これらいっさいのものは、御子によって造られ、御子のために造られたのである」(コロサイ1:16)。天使たちは、神に仕える者で、神のみ前から流れ出る光で輝き、みこころを果たすためにすみやかに飛ぶことのできる翼が与えられているのである。しかし、神の受膏者、「神の本質の真の姿」、「神の栄光の輝き」であられるみ子は、「その力ある言葉をもって万物を保っておられ」て、それらをすべて支配しておられる(ヘブル1:3)。「初めから高くあげられた栄えあるみ座」は、彼の聖所のあるところであり、「公平のつえ」が彼の王国のつえであった(エレミヤ17:12、ヘブル1:8)。「誉と、威厳とはそのみ前にあり、力と、うるわしさとはその聖所にある」「いつくしみと、まことはあなたの前に行きます」(詩篇96:6、89:14)。 PP 13.17

愛の律法が神の統治の基礎であるから、すべての知的存在者の幸福は、その偉大な義の原則に彼らが完全に一致することにかかっている。神は、造られたすべてのものから愛の奉仕、すなわち、神の品性を理解することによってわきおこってくる崇敬を受けることを望まれる。神は、強制された服従をお喜びにならない。そして、神はすべての者に自由意志を与えて、彼らが、自発的に神に奉仕できるようになさっ た。 PP 13.18

造られた者がすべて、神に対する愛の忠誠を了承しているうちは、神の造られた全宇宙に完全な調和があった。創造主のみこころをなすことが、天の軍勢の喜びであった。神の栄光を反映することと神への賛美が、彼らの楽しみであった。そして、彼らが神を最高に愛していた間は、互いの間の愛も信頼と無我の精神に満ちていた。そこには、天の調和を破るものは何1つなかった。しかし、この幸福な状態に変化が起こった。神が被造物にお与えになった自由を悪用した者があった。罪は、キリストの次に位し、最大の栄誉を神から受け、天の住民の中で最高の力と栄光を与えられていた者から始まった。「黎明の子」ルシファーは、きよく汚れのない守護のケルブの第一の者であった。彼は、大いなる創造主のみ前に立っていた。そして、永遠の神をめぐり照らすつきない栄光の輝きが、彼の上に宿っていた。「主なる神はこう言われる、あなたは知恵に満ち、美のきわみである完全な印である。あなたは神の園エデンにあって、もろもろの宝石が、あなたをおおっていた。……わたしはあなたを油そそがれた守護のケルブと一緒に置いた。あなたは神の聖なる山にいて、火の石の間を歩いた。あなたは造られた日から、あなたの中に悪が見いだされた日まではそのおこないが完全であった」(エゼキエル28:12~15)。 PP 14.1

ルシファーは、少しずつ自己を高めようという野望にふけるようになった。「あなたは自分の美しさのために心高ぶり、その輝きのために自分の知恵を汚した」(エゼキエル28:17)、「あなたはさきに心のうちに言った。……『わたしの王座を高く神の星の上におき、……いと高き者のようになろう』」(イザヤ14:13、14)。この偉大な天使の栄光のすべては神から与えられたものであったにもかかわらず、彼はそれを自分のものであるかのように思うようになった。彼は、天の軍勢にまさる大いなるほまれを受けていたが、自分の地位に満足しないで、創造主だけに向けられなければならない尊敬を受けたいと望むようになった。彼は、神をすべての被造物の愛と忠誠を受ける最高の方とするかわりに、自分で彼らの崇敬と忠誠を受けようと努めた。そして、この天使のかしらは、無限の父である神かみ子にお与えになった栄光をほしがり、ただキリストだけが持っておられた力を自分のものにしようと熱望した。 PP 14.2

さて、天の完全な平和は破られた。創造主に仕えるかわりに、自分のために働こうとするルシファーの気質を見て、神の栄光を第一義的に考えた者たちは、不安の念に捕われた。天使たちは、天の会議の席上で、ルシファーに嘆願した。神のみ子は、創造主の偉大さと恵み深さと、公平なことと、そして、神の律法が神聖で不変なものであることを彼にお示しになった。天の秩序をお定めになったのは、神ご自身であった。そして、その秩序から離れるならば、ルシファーは彼の創造主をはずかしめ、自分を破滅させることになるのであった。しかし、無限の愛とあわれみによって与えられた警告も、ただ彼に反抗の精神を起こさせるだけであった。ルシファーはキリストへのしっとに燃えて、ますますかたくなになっていった。 PP 14.3

神のみ子の至上権に異議を唱え、そのことによって、創造主の知恵と愛とを非難することが、この天使のかしらの目的となっていた。キリストの次に位を占め、神の軍勢の中で第1位であった彼は、その偉人な頭脳の能力を、その目的のために傾けようとしていた。しかし、すべての被造物が自由な意志で行動するように望まれた神は、反逆を正当化しようとする詭弁にだれ1人欺かれないように警告を与えておられた、大きな戦いが始まるに先だって、すべての者は、神のみこころをはっきり知り、神の知恵と恵みが彼らのすべての喜びの源泉であることを悟らなければならなかった。 PP 14.4

宇宙の王は、天の軍勢をそのみ前に召集されたそれは、彼らの前で、み子の真の地位を説明し、み子がすべての被造物に対してどんな関係にあるかを示すためであった。神のみ子は、父のみ座に共に座をしめられた。そして、永遠、自在の神の栄光が両者を包んでいた。み座のまわりには、数えきれない大軍、「万の幾万倍、千の幾千倍」もの聖天使が集まった (黙示録5:11)。彼らは、使者、従者として、最高の栄誉を与えられた天使で神のみ前から来る光を受けて喜びに満ちていた。王なる神は、集まった天の住民の前で、神のひとり子であるキリストだけが完全に神の計画に参与し、神のみこころの大いなる計画を実行することがゆだねられていることを言明なさった。神のみ子は、大勢の天使を創造なさったときに、神のみこころを行われたのであった。そして、彼らは、神に対すると同じく、み子に対しても、尊敬と忠誠を尽くさなければならなかった。キリストは、この地球とその住民の創造のときにも、神の力を働かされることになっていた。しかし、それにもかかわらず、キリストは、神の計画にそむいて、権力を求めたり、自分を高めたりすることをせず、父の栄光を高め、神の恵みと愛の御目的を実行しようとなさったのである。 PP 14.5

天使たちは、快くキリストの主権を認めて、キリストの前にひれ伏して、彼らの愛と崇敬の念をあらわした。ルシファーは、彼らとともに頭をたれた。しかし、彼の心の中には、奇妙な激しい葛藤があった。真理、公平、忠誠などがしっととねたみと戦っていた。聖天使たちの感化は、しばらく、彼を納得させたように思われた。美しい調べにのせて、賛美の歌が聞こえ、歓喜に満ちた幾千もの声がそれに和したとき、悪の精神は消えてしまったように思われた。彼の全身は、言い表しようのない愛で震えた。彼の心は、罪のない礼拝者たちと1つになって、父とみ子とを深く愛した。しかし、また彼は、自分の栄光を誇る気持ちに満たされた。最上位を求める欲望が舞いもどってきた。そして、彼は、ふたたびキリストをねたむ気持ちにふけった。ルシファーは、彼に授けられた大いなる栄誉を、神の特別の賜物として認めなかったので、創造主に対する何の感謝の念も表さなかった。彼は自分の輝きと高い地位を誇り、神と等しくなろうと欲した。彼は、天軍に愛され、尊敬されていた。天使たちは喜んで彼の命令を行った。そして、彼は、すべての天使にまさって、知恵と栄光が与えられていた。しかし、神のみ子は、父と同じ能力と権威を持った方として、彼以上に高められていた。み子は天父の相談にあずかっていたが、ルシファーは、そのように神の計画に参与していなかった、大天使は、「なぜ、キリストが最高でなければならないのだろうか。なぜ、彼が自分以上に栄誉を受けるのだろうか」との疑問をいだいた。 PP 15.1

ルシファーは、神の御前の自分の場所を離れて、天使の間に不満の精神を流布するために出ていった。彼は極秘のうちに働いた、そして、彼はしばらくの間、神を崇敬しているふうを装って、彼の真意を隠していた。彼は、天使たちを支配していた律法に対する疑惑をほのめかし始めた。そして彼は、諸世界の住民にとって、律法は必要であろうが、天使たちは、彼らよりもすぐれたものであり、自分自身の知恵が十分な道しるべとなるから、こうした制限は不必要であると言った。彼らは、神のみ名を汚し得るものではない、その思想もすべて清いのである、神ご自身があやまちを犯すことがありえないと同様に、彼らもあやまちを犯すことはありえないと言うのであった。神のみ子が父と同等に高められたことは、自分も同様に崇敬と栄誉を受けるべきだと主張していたルシファーにとって不正行為を意味した。もしも、この天使のかしらが、彼の当然到達すべき高い地位につくことができれば、それは天の全軍に、大きな利益をもたらす。なぜならば、彼のねらいはすべての者に自由を確保することだからである、ところが、今まで彼らに与えられてきた自由さえ、もう失われた。なぜなら、独裁的支配者が、彼らの上に任命され、その権威にすべての者が従わなければならないからである。これは、巧妙な欺きてあり、ルシファーのたくらみによって、人の宮廷に急速に広がっていった。 PP 15.2

キリストの地位、または権威には何の変化もなかった。ルシファーのしっとと虚偽のことば、そして、彼かキリストと同等の地位を主張したことから、神のみ子の真の地位についての宣言が必要になった。しかし、み子の地位は、初めから同じであった。ところが、多くの天使たちは、ルシファーの欺きに惑わされていた。 PP 15.3

ルシファーは、自分の配下の天使たちが、彼を愛し、真心から信頼しているのを利用して、巧みに彼らの心に彼自身の不信と不満の精神とを吹き込み、そ れが彼のしわざであることが、だれにも気づかれないようにしていた。ルシファーは、神のみこころを曲げて伝え、誤解と曲解によって、紛争と不満をかきたてた。彼は、巧妙に彼の話を聞いた者たちにその感情を口にするように導き、自分に好都合のときには、天使たちのそのようなことばを利用して、彼らが神の統治と完全に調和していない証拠としてあげた。自分は、神に完全な忠誠を尽くしていると言いながら、神の政府の安定のために、天の秩序と律法の変更が必要であると、彼は力説した。こうして彼は、神の律法に対する反対を引き起こそうと努力し、彼の支配下の天使たちの心に自分の不満を吹き込みながら、表面的には、不満をとり除き、離反した天使たちを天の秩序に従わせようとしているように見せかけた。彼は、最高の狡猾さをもってひそかに不和と反逆を培養しながら、自分の唯一の目的は、忠誠心を促し、調和と平和を維持することであるかのように装っていた。 PP 15.4

こうして、たきつけられた不満の精神は、有害な作用をしていた。公然とした反乱は何もなかったが、知らず知らずのうちに、天使たちの間に考え方のくい違いが生じてきた。神の統治に敵対するルシファーの扇動に賛成する者が現れた。彼らは、これまでは神の定められた秩序に完全に一致してきたが、測り知れない神のみこころをきわめ得なかったために、不満と不幸を感じるようになった。彼らは、神がキリストを高められることを不満に思った。これらの天使は、神の子と同等の権威を要求するルシファーを支持した。しかし、真実で忠誠な天使たちは、神の命令が、知恵と公平に満ちていることを認め、彼らを神のみ旨と和解させようと努力した。キリストは、神のみ子であった。彼は、天使が造られる以前から、神と1つであり、常に天父の右側に立っておられた。すべてのものはキリストの慈悲深い支配下で豊かな恵みを受けていたので、その至上権はこれまで1度も問題にされたことはなかった。天の調和は今まで乱されたことはなかったが、なぜ、今、不和が起こされなければならないのか。忠誠な天使たちは、この不和が恐ろしい結果しかもたらさないことをさとった。そして、彼らは、不満を持った者たちに、心を入れ替えて神の統治に従い、神への忠誠をあらわすように熱心に勧めた。 PP 16.1

恵み深い神は、大いなるあわれみをもって、長い間ルシファーを忍ばれた。不平と不満の精神は、これまで天において起こったことがなかった。それは、初めての不可解な、説明することのできない新しい要素であった。はじめのうちはルシファー自身も、自分の感情の真の性質を理解することができず、しばらくは、自分の心の動きや思いを口にするのを恐れたが、その気持ちを一掃しようとはしなかった。彼は、自分がどこまで迷って行くのか見当がつかなかった。しかし、無限の愛と知恵の神の力が、彼の非を認めさせるために用いられた。彼の反逆には、正当な理由がないことが明らかにされ、また、彼が、反逆を続けるならば、どんな結果になるかが彼に示された。ルシファーは、自分の非を認めた。彼は、「主はそのすべての道に正しく、そのすべてのみわざに恵みふかく」、神の律法は、正しいものであること、そして、それを全天の前で認めなければならないことを知った(詩篇145:17)。もし彼がそうしたならば、彼は自分と多くの天使たちを救うことができたことであろう。そのときまで、彼は、神への忠誠を全く放棄してはいなかった。彼は、守護のケルブの地位を去ったけれども、創造主の知恵を認めて神に立ちかえり、神の偉大な計画のなかで与えられている地位に満足するならば、彼の職務に復帰することができたのであった。 PP 16.2

やがて最後の決定をくださなければならないときがきた。彼は、神の主権に全く服するか、それとも公然と反逆するかのどちらかにきめなければならなかった。彼は、もう少しで立ちかえる決心をするところであったが、彼のプライドがゆるさなかった。これまで、不正なものであることを証明しようとして戦ってきたその権威に、自分のまちがいと自分の考えの誤りを告白して服従することは、彼のように高い栄誉を与えられてきた者にとっては、あまりにも大きな犠牲であった。 PP 16.3

慈悲深い創造主は、ルシファーと彼に従った天使たちをあわれみ、彼らを、いままさに陥ろうとしている滅亡の深淵から、なんとかして引きもどそうと努力された。しかし、神のあわれみは、彼らに誤解された。ルシファーは神がなされる忍耐を、むしろ自分が優勢である証拠であると考え、みんなのものに、宇宙の王は、自分の条件に譲歩しようとしていると言いふらした。彼は、もし天使たちが断固として自分の側につくならば、望むものは何でも得られると宣言した。 PP 17.1

彼は、あくまでも、自分の行為の正当を主張し、創造主に対して大争闘をいどんだ。こうして、「光をになう者」であり、神の栄光にあずかる者、神のみ座に仕えていた者であったルシファーは、その反逆によりサタンとなって、神の聖者たちの「敵対者」となり、天が彼に指導と保護をゆだねられた者たちを滅ぼす者となった。 PP 17.2

彼は、忠実な天使たちの意見と嘆願を軽蔑して退け、彼らを、だまされた奴隷であると宣言した。彼は、キリストが優先的に扱われることは、自分と天の全軍とに対する不正行為であり、自分と天の全軍の権利がこのように侵されることは、もはや許すことができないと宣言した。彼は、キリストの至上権を二度と認めようとしなかった。彼は、当然自分に与えられるべきであった栄誉を要求し、彼に従うすべての者を指揮する決心をした。そして、彼の側に加わる者に、すべての者が自由を楽しむことのできる、新しくてよりよい政治を約束した。そのために、彼を指導者として受け入れることを表示した天使が数多く現れた。彼は、自分の主張に賛成する者があったのに気をよくし、天使全体を自分の側に引き入れ、自分が神ご自身と同等になって、天の全軍を従わせようと望んだ。 PP 17.3

けれども、忠実な天使たちは、なお、ルシファーと彼に同調した者たちに、神に従うことを熱心に勧めた。そして、もしも、彼らがそれを拒否するならば、ついには、どんな結果に陥らなければならないかを示した。彼らを創造されたかたは、彼らの権力をくつがえし、彼らの反逆活動に対し厳罰を下すこともおできになる。また、神ご自身と同様に、神聖な神の律法に反対して成功をおさめる天使はひとりもいないことを説明した。忠実な天使たちは、ルシファーの欺瞞的議論には耳をふさぐようにすべての者に警告した。そして、ルシファーと彼に従った者たちには、一刻も早く神のみ前に出て、神の知恵と権威を疑ったあやまちを告白するように勧めた。 PP 17.4

この勧告に耳を傾け、彼らの不満を悔い改めて、父とみ子に喜ばれる者になりたいと思う者が多くあった。ところが、ルシファーは、すでにもう1つの欺瞞を用意していた。この大反逆者は、自分と結束した天使たちはすでに深入りしすぎているから、立ちかえることはできないと断言した。自分は神の律法に精通している、だから神は、お赦しにならないのを知っていると彼は断言した。天の権威に屈服する者は、すべてその栄誉を奪われ、その地位を下げられるであろうと彼は断言した。そして、彼自身は、二度とキリストの権威を承認しない決意をした。彼と彼に従う者たちの唯一の道は、自由を主張し、自分たちに、気持ちよく与えられなかったところの権利を、力づくで手に入れることであると、彼は言った。 PP 17.5

サタン自身に関するかぎり、深入りしすぎて立ちかえれなくなっていたことは事実であった。しかし、彼に欺かれた者たちはそうではなかった。忠実な天使たちの勧告と嘆願は、サタンに従った天使らに希望の扉を開いた。彼らが警告に耳を傾けたならば、サタンのわなからのがれることができたはずであった。しかし、誇りと指導者に対する愛着、無制限の自由を得ようとする欲望などが勝ちを得て、神の愛とあわれみの嘆願は退けられてしまった。 PP 17.6

神は、不満の精神が熟して行動的な反逆になるまで、サタンが働きを進めることをお許しになった。サタンの計画の性質と傾向がどんなものであるかが、すべての者に理解されるように、その計画が十分に実行される必要があった。油を注がれたケルブとして、ルシファーには高い地位が与えられていた。彼は、天使たちから大いに愛されていて、彼らに強い感化を与えていた。神の統治は、天の住民ばかりでなくて、神が創造されたすべての諸世界をも包含してい た。そして、ルシファーは、もし天使たちを自分の反逆に引き入れることができれば、すべての世界をも自分の側に引き入れることができると考えた。彼は、自分の目的を達成するために、詭弁と欺瞞を用いて、巧妙な論陣を張った。彼の欺瞞の力は非常に人きかった。彼は、欺瞞の外套に身を隠して、自分の側を有利に導いていった。彼の行動は、すべて、神秘で包まれていたので、天使たちは、彼の働きの真の性質を見破ることはむずかしかった。それが十分に発展するまでは、それが悪いものであることがわからなかった。彼の不満が、反逆とは思われなかった。忠実な天使たちでさえ、彼の性格を十分に見わけ、彼の働きがどんなことになるのかを識別することができなかった。 PP 17.7

最初ルシファーは、自分自身は全く関係していないような態度で、誘惑の手をのばした、彼は、自分の側に十分に引き入れることができなかった天使たちには、天の住民の利益に対して無関心であるという汚名を着せた。彼は、彼自身が行っているその働きを、忠実な天使たちの責任に帰した。神のみこころに関して巧妙な議論をして当惑させることが、彼の方針であった。彼は、単純なことをみな不可解にし、巧妙な曲解悪用によって、主の明白な言葉に疑惑を投げかけた。神の統治と非常に緊密な関係にあった彼の高い地位は、彼の言い分に大きな力を貸した。 PP 18.1

神は、真理と公平にかなった方法しかお用いにならなかった。サタンは、神がお用いになれないもの、すなわち、へつらいと欺瞞を用いることができた。彼は、神の言葉を偽りであると言い、神の統治計画を曲解して示した。そして、神が天使たちに律法を課するのは正しくないと言った。また、被造物に従順と服従を求めて、神はただ自己を亮めようとしておられるのだと言った。したがって、天の住民とすべての世界の前に、神の統治は正しく、神の律法は完全であることを示す必要があった。サタン自身は、宇宙の福利を増進しているかのように装っていた。横領者の真の性質、彼のほんとうの目的がすべてのものに理解されなければならなかった。彼の正体が彼自身の悪い行為によって露見するために時間が必要であった。 PP 18.2

サタンは、自分自身が天で引き起こした不和を、神の統治のせいにした。すべての悪は、神の統治の結果であると断言した。彼は、主の律法を改良することが自分の目的であると主張した。そこで神は、彼の主張するところを実際にやって見て、彼の主張するように律法を変更したらどんな結果になるかを示すことをお許しになった。彼自身のわざが、彼を断罪すべきである。サタンは、初めから、自分は反逆していないと主張してきた。全宇宙は、欺瞞者の仮面かはがれるのを見なければならなかった。 PP 18.3

彼が天から追放されたときでさえ、無限の知恵を持つ神は、サタンを滅ぼされなかった。神は、ただ愛の奉仕だけをお受けになるのであるから、被造物の神に対する忠誠は、神の公平と慈愛を堅く信じた上でなされるものでなければならない。天と諸世界の住民は、まだ、罪の性質、あるいはその結果を理解することができなかったので、サタンが神に滅ぼされることの正当性をそのとき理解できていなかった。もしもサタンが、直ちに滅ぼされてしまったならば、愛からではなく、恐れから神に仕える者も起こったことであろう。欺瞞者の影響は完全にぬぐい去られず、反逆の精神も根絶されなかったことであろう。全宇宙の永遠の福祉のために、サタンに、彼の主義主張をもっと展開させなければならなかった。それは、すべての造られた者が、神の統治に対するルシファーの非難の正体をほんとうに悟るためである。そして、神の公平とあわれみ、神の律法の不変性に対する疑惑が永久に除かれるためである。 PP 18.4

サタンの反逆は、来たるべきすべての時代にわたって、宇宙に対する1つの教訓、すなわち、罪の性質とその恐るべき結果についての永遠の証明となるべきであった。サタンの支配の結末とそれが人と天使におよぼした影響は、神の権威を取り除いた結果がどうなるかを示すことであろう。それは、神に造られたすべてのものの幸福が、神の統治の存在と結びついていることを証言することであろう。こうして、この恐 るべき反逆の歴史は、すべての清い者たちを永久に守るものとなり、彼らが罪の性質に関して欺かれることがないようにし、罪を犯し、その罰を受けることがないように、彼らを救うものとなるのであった。 PP 18.5

天において支配なさるかたは、初めから終わりまでごらんになる方である。その方の前には、過去と未来の神秘が同じように展開されている。彼は、罪がもたらした不幸と暗黒と破滅のかなたに、神ご自身の愛と祝福のみこころが達成されるのをごらんになる。「雲と暗やみとはそのまわりに」あるけれども、「義と正とはそのみくらの基である」(詩篇97:2)。そして宇宙の住民は、忠実なものも、不忠実なものも共に、やがて、このことを理解するときが来る。「そのみわざは全く、その道はみな正しい。主は真実なる神であって、偽りなく、義であって、正である」(申命記32:4)。 PP 19.1