各時代の大争闘
ウォルムス到着
ルターが旅を続けていくと、至るところで非常な興味をもって迎えられた。熱心な群衆が彼を取り囲み、好意を寄せる人々が、ローマ教側の意図することについて、彼に警告した。「彼らは、あなたを焼き殺し、ヨハン・フスに行ったと同様に、あなたの体を灰にするでしょう」とある者は言った。ルターはそれに答えた。「たとえ彼らが、ウィッテンベルクからウォルムスまで火を点じ、炎が天にまで届いたとしても、わたしはその中を主の名によって過ぎ、彼らの前に立とう。わたしは、この巨獣のあごに入り、その歯を砕いて、主イエス・キリストのあかしをしよう」 GCJap 177.3
ルターがウォルムスに近づいたという知らせは、大きな騒動を引き起こした。彼の友人たちは彼の身の安全を気づかい、彼の敵たちは自分たちの側の成功をあやぶんだ。彼が町に入るのを断念させようとする非常な努力がなされた。法王側の扇動によって、ルターは、友好的な騎士の城へ行くようにと勧められた。そこではすべての困難が円満に解決されうる、というのであった。友人たちは、差し迫った危険を述べて、彼に恐怖心を起こさせようとした。しかし、彼らの努力は無に帰した。ルターは少しも動ずることなく、「たとえ、ウォルムスに屋根の瓦のように多くの悪魔がいても、なおわたしはウォルムスへ行く」と断言した。 GCJap 178.1
彼がウォルムスに到着した時、大群衆が門に集まって彼を歓迎した。皇帝を出迎える時でも、これほどの群衆が集まったことはなかった。 GCJap 178.2
激しい興奮が起こった。そして群衆の中からかん高くもの悲しい声が葬送歌を歌い出して、ルターを待っている運命を警告した。しかし彼は、馬車から降りる時、「神はわたしの高きやぐらである」と言った。 GCJap 178.3
法王側は、ルターが本当にウォルムスに姿をあらわすとは考えていなかった。彼の到着に彼らは驚いた。皇帝は、直ちに議員を召集して、どうすべきかを諮った。厳格な法王教徒である一人の司教は、次のように言った。「われわれはこの問題を長く考慮してきました。どうか皇帝は、この男を直ちに処分してくださるように。ジギスムントはヨハン・フスを火刑にしたではありませんか。われわれは、異端者に通行券を与えることも、それに束縛されることもありません」「いや、われわれは約束を守らねばならない」と皇帝は言った。こうしてルターは、発言することに決まった。 GCJap 178.4
全市は、この驚くべき人物を見ようとわきかえり、まもなく、彼の宿舎には訪問者が殺到した。ルターは、病気が治ったばかりであった。彼は、丸二週間かかった旅行に疲れていた。そして、翌日の重大な出来事に直面する準備をしなければならなかった。彼には安静と休養が必要であった。しかし、貴族、騎士、司祭、 GCJap 178.5
市民など、彼に会いたい人々が続々とつめかけて、彼はわずか二、三時間の睡眠しかとれなかった。これら訪問者の中には、聖職者たちの悪弊の改革を大胆に皇帝に要求していた多くの貴族たちがいた。ルターは、この人々は「みな、わたしの福音によって解放された人たちだ」と言った。友人たちだけでなく、敵もまた、この不屈の修道士を見ようとしてやってきた。しかし彼は、揺るがぬ冷静さをもって彼らに面会し、だれにでも、威厳と知恵をもって答えた。彼の態度はしっかりしていて、勇敢であった。彼の青ざめた、やせた顔には、労苦と病気のあとがあったが、思いやりと喜びの表情さえたたえていた。厳粛で真剣な彼の言葉には、敵でさえ全くたちうちできない力があった。これには敵も味方も驚いた。ある者たちは、彼の上に神の力が加わったと信じたが、キリストについてパリサイ人が言ったように、「彼は悪霊にとりつかれている」と言う者たちもいた。 GCJap 179.1