各時代の大争闘
法王使節による審問
審問の場所はアウグスブルクに決まり、改革者ルターは徒歩でそこへ出発した。人々は、彼の身の安全を憂慮した。途中で彼を捕らえて殺害するという脅迫が公然と行われていたので、彼の友人たちは行かないように頼んだ。彼らはルターに、しばらくウィッテンベルクを離れて、彼を快く保護してくれる者のところに避難するように勧めさえした。しかし、彼は、神が彼を置かれた場所を離れようとしなかった。どんな嵐が吹きよせようとも、彼は忠実に真理を保持し続けなければならなかった。彼は次のように言った。「わたしは、争いと闘争の人、エレミヤのようである。しかし、彼らが激しく脅迫すればするほど、わたしの喜びは増し加わる。……彼らはすでに、わたしの名誉と評判を傷つけた。ただ一つだけ残っている。それはわたしの GCJap 155.3
哀れな体である。これを持っていくがよい。こうして彼らは、わたしの命を数時間縮めることができよう。しかし彼らは、わたしの魂を取ることはできない。キリストの言葉を世界に宣言しようとする者は、いつでも死を覚悟しなければならないのだ」 GCJap 156.1
ルターがアウグスブルクに到着したという知らせは、法王の使節を大いに満足させた。全世界の注目を集めたやっかいな異端者が、今やローマの権力のもとに入ったように思われたので、使節は彼を逃がすまいと決心した。ルターは、通行券を手に入れていなかった。彼の友人たちは、それを持たずに使節の前に出ることがないように強く勧告し、彼ら自身が、それを皇帝から入手するようにした。使節は、できればルターを強いて自説を撤回させようとし、もしそれができない場合には、彼をローマへ送り、フスやヒエロニムスと同じ運命に陥れようとしていた。そこで彼は、彼の部下を用いて、ルターを通行券なしで出頭させ、彼の手中に身をゆだねさせようとした。ルターは、そうすることを断然拒否した。彼は、皇帝の保護を保証する文書を受け取るまでは、法王使節の前に出なかった。 GCJap 156.2
法王側は策の一つとして、うわべの穏やかさでルターを説き伏せようとした。使節は彼との会談において、非常に友好的な態度を示した。しかし、彼は、ルターが教会の権威に絶対的に服従すること、そして、議論や質問の余地なくすべての点において服従することを要求した。彼は、自分が相手にしなければならない人物の性格を、正しく評価していなかった。ルターは、それに答えて、教会に対する彼の関心、真理に対する願いを述べた。そして、彼が教えたことに対する反対には、すべて答える用意があり、また、どこかの有力な大学に彼の教説の検討をゆだねる用意があると言った。しかし彼はそれとともに、彼の誤りを証明もせずに取り消しを要求する のやり方に抗議した。 GCJap 156.3
唯一の返答は、「取り消せ、取り消せ」ということだけであった。ルターは、彼の主張が聖書に支持されたものであることを示し、真理を破棄できないことを断言した。法王使節は、ルターの議論に反論できなかった。そこで彼は、言い伝えや教父たちの言葉を引用しながら、激しく責め、あざ笑い、またへつらいなどをして、ルターに話す機会を与えなかった。このような状態で会議を続けても何もならないので、ルターは、ついに、彼の答弁を文書によって提出する許可をやっとのことで受けることができた。 GCJap 157.1
「こうすることにより、圧迫を受けている者は二重の利益を受ける。第一に、書いたものを他の人々の判断に訴えることができる。次に、高慢な言葉によって圧倒しようとする横柄で多弁な暴君の良心に訴えないとしても恐怖心を起こさせ得る」とルターは、友人に書いて言った。 GCJap 157.2