各時代の大争闘

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ウィクリフの影響

プラハの一市民、ヒエロニムス(ジェローム)―─後にフスの親友になった人物―─は、英国からの帰国に際して、ウィクリフの著書を持ち帰っていた。ウィクリフの教えに改宗した英国の女王は、ボヘミアの王女であったから、彼女の影響によって、改革者の著書が広くボヘミアに配布された。フスは、これらの著書を興味深く読んだ。彼は、著者がまじめなキリスト者であることを信じ、彼の主張する改革運動に賛成するようになった。フスは、自分では自覚していなかったが、もうすでに、ローマから遠く離れることになる道を歩きはじめたのであった。 GCJap 114.3

ちょうどこのころ、プラハに、学識のある二人の旅人が英国から到着した。彼らは光を受け入れており、それを伝えるために遠くの地までやってきたのであった。彼らは初めから法王の至上権を公然と攻撃したので、すぐにその筋から発言を止められてしまった。しかし彼らは、そのまま引き下がることを好まず、他の方法を用いることにした。彼らは、説教者であると同時に画家でもあったので、自分たちの技術を活用することにした。人々の目につくところに、彼らは二枚の絵を描いた。一枚はキリストのエルサレム入城をあしらっていた。キリストは「柔和なおかたで、ろばに乗って」おられ、その後に、旅ですり切れた衣をまとった弟子たちがはだしで従っていた(マタイ21章5節)。もう一枚の絵は、法王の行列を描いていた。法王は華やかな衣を身につけ、三重の冠をかぶって、立派に飾った馬に乗り、その前にはラッパを吹く者たちが行き、後からは枢機卿や高位聖職者たちが豪華に着飾って従っていた。 GCJap 115.1

これは、あらゆる階級の人々の注目をひいた説教であった。群衆が集まって、絵を見つめた。その教訓がわからない人はいなかった。そして多くの人々は、主イエス・キリストの柔和と謙遜と、そのしもべであると称する法王の高慢で尊大な態度との対照に、深い印象を受けた。プラハでは大きな騒ぎが起き、しばらく後に旅人たちは、身の安全のために立ち去らねばならなかった。しかし、彼らが教えた教訓は忘れられなかった。この絵はフスの心に強い印象を与え、聖書とウィクリフの著書をもっと詳しく研究するようにしむけた。彼はまだ、ウィクリフが主張する改革のすべてを受け入れる準備はなかったが、法王権の真相が彼にはいよいよ明らかとなって、彼はますます熱心に教権制度の高慢と野心と腐敗とを非難した。 GCJap 115.2